シーズン総括(中) 長期体制からの引継ぎ失敗
- 2015/12/11
- 16:59
岸野靖之監督が戦い方の構築をはじめとするチームづくりに苦労した要因はどこにあるのか。クラブは昨季から在籍する選手を中心にチームを編成し、岸野監督に託した。就任後に補強した主力クラスはDF日高拓磨、FW北井佑季のみ。この戦力が「1年でJ2復帰」という目標を達成できる水準にあったかどうかは見解が分かれるところだろう。
監督とクラブでも考えは違った。岸野監督は「降格したクラブが昇格するには圧倒的な戦力が必要であり不十分」と感じていたが、クラブ側は若手の潜在能力とベテラン監督の手腕に期待して現有戦力でのトライを要請した。クラブには財政的な事情もあったと想像される。このみぞは最後まで埋まらなかった。
■戦力把握、考えの浸透に手間どる
岸野監督にとってのさらなる誤算は、「技術はJ3では上位だと考えていたが、実戦になるとそれを発揮できない選手が多い」と開幕後に認識したこと。自らの要求に応えられる選手が不足し、戦術と選手起用の両面で試行錯誤が続いた。ルーキーのFW中西倫也とMF馬渡隼暉に序盤戦から出場機会を与え、MF三上陽輔をボランチで試すなどしたのは象徴的だ。選手の能力や個性、組み合わせの相性などの把握に手間どった感は否めない。
チームには4年半の長期にわたって率いた安間貴義監督のもとで培われた土壌があり、自らの考えを浸透させるのにも時間を要した。「サイドチェンジをして広く展開するように選手に言うのだが、受けたら受けた方向で続けることが多い。狭い所を打開できればチャンスになるし、気持ちも良いが、半面で敵の人数も多くピンチを招くリスクのほうが高い。昨季まではそういうやり方だったのだろうが、わたしからみると良くない習慣。変えるのには時間がかかる」。第4節・町田戦後にこう話している。
岸野監督が目指したオーソドックスなサッカーでは得点を奪うために最終的には縦パスやクロスの精度が必要だった。安間体制では戦力不足を補うために変則的な独自戦術をとっていた時期が長く、監督自身も与えられた環境でやりくりすることにやりがいを見いだしていた。そこから引き継いだ戦力は、岸野監督の目には能力が足りないばかりか特性などのバランスも偏ったものに映った。その中で7月に松本から期限付きで移籍したMF椎名伸志をチーム変革の軸にしようと期待を寄せたが、第23節・琉球戦で大けがをして戦線を離脱したのは痛恨だった。
「チームを根本的に変えなければならない」と岸野監督は若手を我慢強く起用した。上位との勝点差が開き、来季も見据えて取り組んでいるようにみえた。しかし、天皇杯予選での敗退をきっかけに8月27日に解任となった。
■かみ合わなかった努力
代わって監督に就任した澤入重雄ゼネラルマネジャー(GM)は、それまで出場時間の短かったベテラン・中堅を含む選手の力を引き出すことに注力した。選手の特長を生かすかたちで攻撃を組み立てる練習に時間を割き、伸び伸びとプレーさせようとした。シーズン終了後にも語った「チームとしての戦い方が構築できず、選手の能力を発揮させられなかった」との考えに基づいている。
来季への準備もこの反省を踏まえて進められている。「J3には個人で局面を打開できるような選手はいない。チームとしていかに戦うかが重要であり、対戦相手に左右されないスタイルをつくる必要がある」と話した。
今季の監督交代劇には時期やタイミングの不可解さもあってシーズン終了まで否定的な意見が少なくなかった。一連の動きを振り返って整理すると、クラブ側は大幅な選手入れ替えの必要性を公言する岸野監督の考えを支持せず、「選手の力を最大限に引き出せていない」として続投よりも解任を選んだと解釈できる。
天皇杯予選で無事に勝利を収めていたら岸野体制が継続されていた可能性は高い。しかし、戦力に対するこの考え方のみぞが埋まらなければ遅かれ早かれ同じような時を迎えていたかもしれない。岸野監督の就任前後から解任に至るまで、フロントとの強化ビジョンの共有がどれだけできていたかは省みなければならないだろう。
新監督のチームづくりに時間が必要なのはもちろんだが、ましてや今回は安間監督の長期体制からの引継ぎであった。移行が少しでもスムーズに行われるように細心の注意とサポートが必要だったのではないかとの教訓が残る。選手たちも、監督とコーチも、クラブも、それぞれに力を尽くしたがかみ合わず、いずれも評価を落とすシーズンになった。
監督とクラブでも考えは違った。岸野監督は「降格したクラブが昇格するには圧倒的な戦力が必要であり不十分」と感じていたが、クラブ側は若手の潜在能力とベテラン監督の手腕に期待して現有戦力でのトライを要請した。クラブには財政的な事情もあったと想像される。このみぞは最後まで埋まらなかった。
■戦力把握、考えの浸透に手間どる
岸野監督にとってのさらなる誤算は、「技術はJ3では上位だと考えていたが、実戦になるとそれを発揮できない選手が多い」と開幕後に認識したこと。自らの要求に応えられる選手が不足し、戦術と選手起用の両面で試行錯誤が続いた。ルーキーのFW中西倫也とMF馬渡隼暉に序盤戦から出場機会を与え、MF三上陽輔をボランチで試すなどしたのは象徴的だ。選手の能力や個性、組み合わせの相性などの把握に手間どった感は否めない。
チームには4年半の長期にわたって率いた安間貴義監督のもとで培われた土壌があり、自らの考えを浸透させるのにも時間を要した。「サイドチェンジをして広く展開するように選手に言うのだが、受けたら受けた方向で続けることが多い。狭い所を打開できればチャンスになるし、気持ちも良いが、半面で敵の人数も多くピンチを招くリスクのほうが高い。昨季まではそういうやり方だったのだろうが、わたしからみると良くない習慣。変えるのには時間がかかる」。第4節・町田戦後にこう話している。
岸野監督が目指したオーソドックスなサッカーでは得点を奪うために最終的には縦パスやクロスの精度が必要だった。安間体制では戦力不足を補うために変則的な独自戦術をとっていた時期が長く、監督自身も与えられた環境でやりくりすることにやりがいを見いだしていた。そこから引き継いだ戦力は、岸野監督の目には能力が足りないばかりか特性などのバランスも偏ったものに映った。その中で7月に松本から期限付きで移籍したMF椎名伸志をチーム変革の軸にしようと期待を寄せたが、第23節・琉球戦で大けがをして戦線を離脱したのは痛恨だった。
「チームを根本的に変えなければならない」と岸野監督は若手を我慢強く起用した。上位との勝点差が開き、来季も見据えて取り組んでいるようにみえた。しかし、天皇杯予選での敗退をきっかけに8月27日に解任となった。
■かみ合わなかった努力
代わって監督に就任した澤入重雄ゼネラルマネジャー(GM)は、それまで出場時間の短かったベテラン・中堅を含む選手の力を引き出すことに注力した。選手の特長を生かすかたちで攻撃を組み立てる練習に時間を割き、伸び伸びとプレーさせようとした。シーズン終了後にも語った「チームとしての戦い方が構築できず、選手の能力を発揮させられなかった」との考えに基づいている。
来季への準備もこの反省を踏まえて進められている。「J3には個人で局面を打開できるような選手はいない。チームとしていかに戦うかが重要であり、対戦相手に左右されないスタイルをつくる必要がある」と話した。
今季の監督交代劇には時期やタイミングの不可解さもあってシーズン終了まで否定的な意見が少なくなかった。一連の動きを振り返って整理すると、クラブ側は大幅な選手入れ替えの必要性を公言する岸野監督の考えを支持せず、「選手の力を最大限に引き出せていない」として続投よりも解任を選んだと解釈できる。
天皇杯予選で無事に勝利を収めていたら岸野体制が継続されていた可能性は高い。しかし、戦力に対するこの考え方のみぞが埋まらなければ遅かれ早かれ同じような時を迎えていたかもしれない。岸野監督の就任前後から解任に至るまで、フロントとの強化ビジョンの共有がどれだけできていたかは省みなければならないだろう。
新監督のチームづくりに時間が必要なのはもちろんだが、ましてや今回は安間監督の長期体制からの引継ぎであった。移行が少しでもスムーズに行われるように細心の注意とサポートが必要だったのではないかとの教訓が残る。選手たちも、監督とコーチも、クラブも、それぞれに力を尽くしたがかみ合わず、いずれも評価を落とすシーズンになった。
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