プロセスを問う
- 2015/08/29
- 01:21
前日に岸野靖之監督を解任したカターレ富山は28日、澤入重雄監督のもと新たにスタートを切った。練習では2008年のJFL時代にヘッドコーチを務めた遠藤善主地域普及育成ダイレクターらアカデミーとスクールのスタッフが指導をサポートしている。クラブの決断がチームの浮上と選手の活躍につながってほしい。
岸野監督の解任は電撃的なものだった。クラブの酒井英治社長は決断した理由を「結果責任を明確にしたうえで流れを変えるため」と説明している。今季は「J2復帰」を最大の目標に掲げた。残り12試合となった現在の順位は13クラブ中7位。入れ替え戦に勝てばJ2に昇格できる2位と勝点18差がつき、実現はかなり難しい状況だ。岸野監督は潔く決定に従い、「(選手たちは)厳しい練習、注文にもひたむきに応えてくれた。自分の手でJ2に連れていきたかった。今は、ただ『ありがとう』と言いたい」(28日付け北日本新聞)とチームを離れた。確かに解任もやむを得ない成績であり、判断がもっと早くてもおかしくなかったぐらいかもしれない。しかし、監督就任からこれまでの経過を踏まえると今回の判断には違和感が残った。
岸野監督は今季のチーム編成がほぼ固まってから就任が決まった。その後に補強した主力級の選手は自らも動いて獲得したDF日高拓磨とMF北井佑季ぐらい。与えられた戦力の中でチームづくりを進め、成長を期待して実績のない若手を多く起用してきた。
開幕当初から「明らかに足りないポジションがある」などと戦力不足に警笛を鳴らしていたが、夏の補強でも獲得したのはMF椎名伸志と大学生のFW萱沼優聖のみ。昨季までJ2で活躍した外国人FWを新戦力候補として検討したが、「カターレにはまだ外国人選手を受け入れる土壌がない」と判断して自重した。上位との差は広がっていたが、クラブの事情も理解して譲歩し、来季も見据えながら我慢強く取り組んでいるようだった。
敗れた23日の天皇杯予選には今季残り試合に向けたチームの底上げと戦力になり得る選手の見極めという明確な目的を設定して臨んでいる。ここからも、現場とフロントの間にチームづくりに対する一定の共通理解があったと考えるのが普通だろう。「根本的にチームを変えようとしていましたが非常に残念です」という岸野監督が残したコメントからも、中期的な展望をもちながら職務についていたことがうかがえる。
しかし、天皇杯予選で社会人クラブの新庄に負け、フロント側は「我々はプロのサッカークラブとしていろいろな事業を展開しており、あってはならない結果に終わった。ファンやサポーターをはじめとするクラブを支えてくださっている多くの方たちに大きな失望を与えるとともに、当クラブの存在意義に対しても疑念を抱かせかねない事態を招くことになった」(酒井社長)として監督を解任した。記者会見でリーグ戦での低迷も併せた「結果責任」と重ねて説明したが、慌てて責任を負わせたと捉えられかねない危うい動きだった。
プロは結果がすべて―。この業界でよく耳にする言葉だ。「結果責任」を理由にした今回の決断に異議を挟む者は少ないのかもしれない。苦渋の末に責任者が決めた。尊重しなければならない。しかし、結果に至るまでのプロセス、そして決断までのプロセスは問いたい。どんな方針のもと、どんな取り組みをしたのか。それをどう検証し、下した判断に説得力はあるのか。たとえ批判されたとしても動じない根拠や信念があるのか。省みて今後の糧とし、必要ならば各方面に丁寧に説明してほしい。
スポーツにおいて勝負に絶対はない。不確定要素にも左右される勝ち負けに大きく影響されるのがプロスポーツクラブ経営の特性であり、難しさだ。結果はコントロールできない。強くなるためにプロセスを踏んでいくしかない。
重要なステークホルダーが多岐にわたるのも地域密着型スポーツビジネスの特徴だ。直接の顧客であるスポンサーやファン、サポーター、ゲームという商品の魅力を高めるための選手と彼らを支えるスタッフ、さらには行政、地域住民、メディア等々。それぞれと信頼関係を築き、共存共栄を目指す誠実さがいる。ここでもプロセスをおろそかにして成果を上げることはできない。
選手たちは勝利につながると信じてトレーニングを再開した。今回の決断がのちに振り返って正しかったと言えるように、今後の努力が成功に結びつくようにと願う。
岸野監督の解任は電撃的なものだった。クラブの酒井英治社長は決断した理由を「結果責任を明確にしたうえで流れを変えるため」と説明している。今季は「J2復帰」を最大の目標に掲げた。残り12試合となった現在の順位は13クラブ中7位。入れ替え戦に勝てばJ2に昇格できる2位と勝点18差がつき、実現はかなり難しい状況だ。岸野監督は潔く決定に従い、「(選手たちは)厳しい練習、注文にもひたむきに応えてくれた。自分の手でJ2に連れていきたかった。今は、ただ『ありがとう』と言いたい」(28日付け北日本新聞)とチームを離れた。確かに解任もやむを得ない成績であり、判断がもっと早くてもおかしくなかったぐらいかもしれない。しかし、監督就任からこれまでの経過を踏まえると今回の判断には違和感が残った。
岸野監督は今季のチーム編成がほぼ固まってから就任が決まった。その後に補強した主力級の選手は自らも動いて獲得したDF日高拓磨とMF北井佑季ぐらい。与えられた戦力の中でチームづくりを進め、成長を期待して実績のない若手を多く起用してきた。
開幕当初から「明らかに足りないポジションがある」などと戦力不足に警笛を鳴らしていたが、夏の補強でも獲得したのはMF椎名伸志と大学生のFW萱沼優聖のみ。昨季までJ2で活躍した外国人FWを新戦力候補として検討したが、「カターレにはまだ外国人選手を受け入れる土壌がない」と判断して自重した。上位との差は広がっていたが、クラブの事情も理解して譲歩し、来季も見据えながら我慢強く取り組んでいるようだった。
敗れた23日の天皇杯予選には今季残り試合に向けたチームの底上げと戦力になり得る選手の見極めという明確な目的を設定して臨んでいる。ここからも、現場とフロントの間にチームづくりに対する一定の共通理解があったと考えるのが普通だろう。「根本的にチームを変えようとしていましたが非常に残念です」という岸野監督が残したコメントからも、中期的な展望をもちながら職務についていたことがうかがえる。
しかし、天皇杯予選で社会人クラブの新庄に負け、フロント側は「我々はプロのサッカークラブとしていろいろな事業を展開しており、あってはならない結果に終わった。ファンやサポーターをはじめとするクラブを支えてくださっている多くの方たちに大きな失望を与えるとともに、当クラブの存在意義に対しても疑念を抱かせかねない事態を招くことになった」(酒井社長)として監督を解任した。記者会見でリーグ戦での低迷も併せた「結果責任」と重ねて説明したが、慌てて責任を負わせたと捉えられかねない危うい動きだった。
プロは結果がすべて―。この業界でよく耳にする言葉だ。「結果責任」を理由にした今回の決断に異議を挟む者は少ないのかもしれない。苦渋の末に責任者が決めた。尊重しなければならない。しかし、結果に至るまでのプロセス、そして決断までのプロセスは問いたい。どんな方針のもと、どんな取り組みをしたのか。それをどう検証し、下した判断に説得力はあるのか。たとえ批判されたとしても動じない根拠や信念があるのか。省みて今後の糧とし、必要ならば各方面に丁寧に説明してほしい。
スポーツにおいて勝負に絶対はない。不確定要素にも左右される勝ち負けに大きく影響されるのがプロスポーツクラブ経営の特性であり、難しさだ。結果はコントロールできない。強くなるためにプロセスを踏んでいくしかない。
重要なステークホルダーが多岐にわたるのも地域密着型スポーツビジネスの特徴だ。直接の顧客であるスポンサーやファン、サポーター、ゲームという商品の魅力を高めるための選手と彼らを支えるスタッフ、さらには行政、地域住民、メディア等々。それぞれと信頼関係を築き、共存共栄を目指す誠実さがいる。ここでもプロセスをおろそかにして成果を上げることはできない。
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